こんにちは!大学院修了フィギュアスケートファンのLenaです!
3月20日に明治神宮外苑スケート場で行われたエキシビジョンで、一人の選手が現役として最後の演技を披露しました。名は、長谷川一輝。神奈川県生まれ北海道育ち、高校生時代は国際大会に出場した経歴があります。東京理科大学に進学後は全日本フィギュアスケート選手権大会に4度出場、バンクーバー五輪男子シングル銅メダル高橋大輔氏プロデュースのアイスショー『滑走屋』のアンサンブルスケーターに選ばれた選手でした。
2019年から毎年、長谷川選手の誕生日(5/13)に特別講座を組んで書くほど、魅力的な演技を披露してきました。『毎回概論シリーズで紹介しきれない!!』と筆者は心底から、長谷川選手のスケートに虜になっていました。
2024年3月、競技引退を受け、最後に長谷川選手の軌跡を残したいという思いから、『東日本フィギュアスケート特別講座2024』の枠で、3回にわたって講義していきます。
前編では、今季2023-24シーズンのプログラムについて、中編では5歳から現役引退までの道のりを、今回後編では選手としての魅力について講義していきます!
毎年書いている忠告です。有り余るエネルギーの結果、情報量が多くなりました。決して引かないでください。…最後の忠告です。本当にご興味ある方のみ、この先読み進めてください。
※過去作
2019年、2020年、2021年、2022年、2023年
※URLの紹介のみ可、本講義のスクリーンショットの公開を禁じます
筆者はよく、長谷川選手の良い所として、
表現面では
・曲の捉え方
・ノーブルな雰囲気
・スケール感の大きさ
技術面でいえば
・スピードと姿勢の美しさを兼ね備えたスケーティング
・高く飛び上がり、柔らかに着氷するジャンプ
・バリエーション豊富で軸のぶれないスピン
・時々ファンを驚かせる技の実施
『書ききれないほど沢山魅力がある』
と毎年書き続けていました。
また、同じクラブに在籍していたことがある鈴木潤氏は解説で以下のように言及したこともあります。
全ての要素を、そつなく高いクオリティでこなすというところが、彼の強みかなと思っています。
2022年東日本選手権 選手権男子SP FOD解説
あらゆるエレメンツも、表現も、高い質を持っていて、惹かれるポイントが沢山あったのです。
まずは表現面について述べましょう。
雑誌『ワールド・フィギュアスケート No.91』2020年全日本選手権レビューにて、國學院大学准教授、町田樹先生は『デニス・テン・メモリアル賞』として取り上げ、表現に関して以下のように評価していました。
決してオーバーアクションではないし、感情をあからさまに表に出しているわけでもない。しかし、彼の一挙手一投足には明確な意志が感じられる。
[1] ワールド・フィギュアスケートフィギュアスケートNo.91
確かに、芸人のように大げさに表情を作って滑るようなタイプではなかったです。ただ、一歩一歩のスケーティングから、自分の感情が滲み出るような、演技を披露していました。曲調に合わせて、強さ、柔らかさ、切なさ、スケール感、様々な情景が目に見えたのです。ジュニア時代から、滑りそのものでテーマを提示する、ある意味大人びて見える、上品な演技でした。
本人は、
『流れるような綺麗な曲』を得意とする
[2] 【全日本選手権への道 東京選手権2021】選手インタビュー動画〈フジテレビ公式〉
とインタビューで答えていました。
映画『海の上のピアニスト』、『Anthem(from “Chess”)』、『The Beatles Concert』に代表されるような綺麗な曲は然り、映画『カサブランカ』のように、渋い男優像を求められようとも、アルバム『KOJIKI』やアルバム『ニュー・インポッシビリティーズ』みたいなオリエンタルな曲も、アップテンポの曲も、更に『マラゲーニャ(演奏:ブライアン・セッツァー)』、『Blues for Klook』といった一風変わった曲も、全て自分のモノにし、ファンを魅了していました。
表現を一つ大きな課題として、コーチで振付の横谷花絵先生とも相談して積み重ねていました。2023年7月に行われた大会ではPCSで7点台が並び、長谷川選手本人は成長を感じたというのです。
[3]、[4]
大学進学後は、よりスケール感が大きくなったと感じるようになったのも、日頃の賜物でしょう。
続いて、技術的な部分に言及しましょう!
・スピードと姿勢の美しさを兼ね備えたスケーティング
演技が始まってから、最後までスピードを保っているように見えるようなスケーティングでした。更に、滑っている時の姿勢が綺麗なのも大きな特徴でした。
膝関節を上手く活かし、効率よくスケーティングの伸びを出していたように見えました!
端正なスケーティングから、ノーブルな雰囲気を醸し出していたところもありました。
・高く飛び上がり、柔らかに着氷するジャンプ
長谷川選手のジャンプは、非常に高く飛び上がって回り、膝、足首をしっかり曲げて、柔らかく着氷するジャンプでした!アクセルを含めた全てのトリプルジャンプを成功させるほどの、ジャンプの力を持っていました。また練習では4回転にも挑戦していました。
2019年全日本Jr.選手権の生中継で、3Lz+3Tのアイスコープ(フジテレビ独自のエレメンツ測定システム)を用いた測定結果が放送されました。3Lzは52cm、3Tは46cmと表示されていました。
2019年全日本ジュニア選手権 ジュニア男子FS BSフジ解説
この結果に、解説を務めていたソチ五輪女子シングル出場村上佳菜子氏は
『セカンドジャンプのほうが高い』
と述べていました。
・バリエーション豊富で軸のぶれないスピン
スピンを回る時の軸が真っ直ぐで、回ってもぶれないのも大きな特徴でした!とりわけ、アップライトストレートの難しいバリエーションである『トンプソン』において、その綺麗さを発揮していたように見えました。2017-18シーズン以降、SPでは最後にCCoSpを配置し、レベル取りの最後に持ってきて、『トンプソンで締める』というイメージが付いていきました!
スピン中のジャンプ、ジャンプでの足替えの1つのプログラムの中で両方実施できるのも、意外と珍しいように思えます。スピンのポジションがバラエティーに富み、レイバック系以外のほぼ全ての技が出来たと考えてます。スピン中の手の振りも豊富に取り入れられたのも、安定しているからこそ出来る技です。
ポジションそのものも姿勢が綺麗で、見栄え良く見えました。
本人もインタビューで
『スピンが結構得意な部類に入る』
[5] Sapporoジモスポ★ はばたけ!未来アスリート フィギュアスケート男子 長谷川一輝
とも答えていました。
・時々観客を驚かせる技の実施
観客が予想もしなかったタイミングで、複雑で、難しそうに見え、今まで見たことがないような小技を披露してたのも大きな特徴でした。
ジュニア時代に取り入れていたのは、シットのポジションでウィンドミルをしてから、一度ウィンドミルを挟んで、足替えシットスピンを実施するという技、これが長谷川選手がテクニシャンとしてのイメージが出来たきっかけでした。
スプレッドイーグルを得意とし、ジャンプやスピンへの入り、StSq、ChSqで大きな見せ場として取り入れていました!更に、イーグルの最中にも手の振りを入れたり、解く時も工夫を取り入れたりすることが出来ました。
シニアに上がってからは、ChSqが加わわったこともあり、プログラムの中でより多くの技を披露できるようになりました。2021-22シーズンSPではStSqの中でニースライドしながら片足を蹴り上げる動き、2021-23シーズンFSのStSqでは左足でツイズル回った直後に、右足を軸に左足を上げたり、ChSqでは、スピードたっぷりに、アウトサイドイーグルで一周回ったあとに、180度開脚するバレエジャンプを披露しました!
このバレエジャンプについて、世界選手権に出場経験がある無良崇人氏が全日本での解説で、2年連続で同じ事を述べていました!!
これ意外と難しいんですよ、1回足開いて、もう1回閉じなきゃいけないので
2022年、2023年 全日本選手権大会 FS BSフジテレビ解説
見た目以上に難しいことを、しかもリンクの壁よりも高く飛んでいると思わせるようなものを披露していたのです。
2022-24シーズンSPのStSqで、無音になる瞬間を狙って、前後180度に開脚した状態でスライドし、そして素早く起き上がって滑るという技を披露していました。多くのファンにとって、見たことも聞いたこともない、今までの発想にはない技に驚き、拍手を送っていました。
なぜ、このようなことができたのか、次のページで解説します。