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東日本フィギュアスケート特別講座2024

【最終講】東日本フィギュアスケート特別講座 長谷川一輝 前編

2023-24シーズンをもって現役引退となったフィギュアスケート男子シングル長谷川一輝選手(東京理科大学)
毎年誕生日に合わせて行った『特別講座』を、前編、中編、後編に分けて行います。前編ではラストシーズンのプログラムについて話します。最後にぜひご覧ください!

FS曲名:アルバム『ニュー・インポッシビリティーズ』より『十面埋伏』/『ヴォ―カッション』
演奏:ヨーヨー・マ/シルクロード・アンサンブル/シカゴ交響楽団
振付:横谷花絵

今季新しくしたプログラムとなります。2023年7月にホームリンクで行われたエキシビションで初披露しました。その時は、2021-22シーズンSPの衣装を着用して披露、エキシビションの翌月に行われた『げんさんサマーカップ 2023』で衣装を初披露しました。

『【音の文化遺産】を世界に発信する』というコンセプトの基、チェロリスト、ヨーヨー・マ氏が結成した『シルクロード・アンサンブル』。アルバム『ニュー・インポッシビリティーズ(原題:New Impossiblilities)』は、中国から欧州の交易網『シルクロード』沿いにある国々の音楽を取り入れ、ヨーヨー・マと、シルクロード・アンサンブルと、アメリカにあるシカゴ交響楽団とコラボした際のライブ音源をまとめたアルバムです。その中から長谷川選手は、『十面埋伏(原題:Ambush from Ten Sides)』と『ヴォーカッション(原題:Vocussion)』の2曲を主軸に使用しています。

フィギュアスケートでは、ソチ五輪銅メダリストデニス・テン氏が、先例となります。『ヴォ―カッション』のみでは、北京五輪銀メダリストの鍵山優真選手(オリエンタルバイオ/中京大学)が2020-21シーズンSPに使用した例があります。

それでは曲の解説に移しましょう!
前半の曲は、正式には『十面埋伏(中国琵琶、中国笙、ギター、チェロとオーケストラのための) Ⅰ.布陣 Ⅱ.角笛 Ⅲ.出陣命令 Ⅳ.埋伏 Ⅴ.ジン・ミン丘での戦い Ⅵ.戦闘』と長いタイトルになります。場面を表すためか、曲調がよく変わるのが特徴です。それを逆手にとって、長谷川選手の使用部分を推測すると、『Ⅰ.布陣』、『Ⅱ.角笛』、『Ⅲ.出陣命令』まで使用しているかどうか(原曲を一部省略しながら2:30辺りまで使用)、そこから飛んで『Ⅵ.戦闘』の部分を使用していると推測します。中国琵琶の曲に『十面埋伏』という曲があり、それを一部引用しながら、201年に中国で起きた『倉亭の戦い』のイメージを表現したと考えています。この『十面埋伏』は、この戦いの時に用いられた戦法であり、10隊が左右5隊に散らばり、夜襲を仕掛けつつ、敵を本陣へおびき出すという作戦です。
後半の曲は、原曲ではまず最初に、複数のボーカルが各々が別々のリズムで、打楽器の音に合わせつつ、声を打楽器のように歌っていく部分から始まります。『Vocussion』という綴りから、『Vocal』と『Percussion』を掛け合わせたと考えています。『ヴォーカル』を『パーカッション』のように演奏するというスタイルをそのままタイトルに反映させています。一連の演奏が終わり、拍手が起こるとシルクロード・アンサンブルの別のアルバムに収録されている『キャラバンサライの夜』に手を加えたものが演奏したものを、ニュー・インポッシビリティーズではヴォ―カッションとして出しているのです。『キャラバンサライ』はペルシア語で『隊商宿』、つまり砂漠を行き交う商人の宿や取引所、倉庫を表しています。
長谷川選手の場合は、2本目の3Lzを降りた直後から曲が切り替わり、キャラバンサライの夜からスタートし、3Sを降りたあとStSqでヴォ―カッションの冒頭が流れ、再びキャラバンサライの夜部分に戻っていくという、大胆なメロディーの入れ替えを実施しています。初見はStSqでようやく、ヴォ―カッションだと気づく人、更にはテン氏や鍵山選手が使用していたことを思い出す人が多かったです。特徴的なヴォーカルが記憶に残りやすいということが要因だと考えます。

StSqが出てきたので、ここで、エレメンツ構成について触れましょう!
予定エレメンツ構成は、
3A+3T、3A、3Lo+2A+2A、FCCoSp、3Lz+2T、CSSp、3F、ChSq、3Lz、CCoSp
2023年東京ブロックFSの6分間練習で、3A+3Tの成功はあるものの、実際の大会では3A+2Tになり、3Lzに+3Tを付けることがほとんどでした。どちらになっても、基礎点は変わりありません。
これまで、FSで3Aを1本入れるかどうかすらも、1シーズン通して安定していなかったところから、いきなり3A2本構成で来たことに驚きました。その副産物で、2Aが2回使えるということを利用し、3連続ジャンプを3Lo+2A+2Aのジャンプシークエンスにするという作戦に出たのです!長谷川選手は2017-18シーズンからずっと、3連続ジャンプは+2T+2Loにしていました。前のFSでは3連続ジャンプは後半、今回は前半である事を考慮しても、基礎点3.30から2倍の6.60と点数が大幅に上がっています!仮に冒頭3A2本のどちらかが2Aになった場合は、2A+2Tで対応していきます。そうなっても、基礎点が4.60となり、今までとは大きく点数を上げていきます。
更に筆者の驚きポイントは、3Loにコンビネーションジャンプを付けた事です!長谷川選手の場合、アクセルを除く5種類の3回転ジャンプの中で、1番投入するのが遅かったのがループだったためか、今まで一度もコンビネーションジャンプを実施しなかったのです。それが今回3連続ジャンプにした瞬間を初めて見た時は、衝撃を食らいました。3連続ジャンプにするためなのか、今まではループはロングサイドの壁方向に向かって飛んでいたのが、ショートサイドの壁方向に向かって助走して踏み切ると変わっていき、入り変えた?というイメージが付きました。筆者は最初この入りを見た時、ルッツを飛ぶかと思ったら、ループだったので戸惑いました。
昨季のジャンプの基礎点は45.95、今季は55.95と10点も基礎点を上げ、出来る最大限の構成でという強い意思がうかがえる構成です!!

前のFSのスピン構成は
CSSp 難しい入り○→スピン中のジャンプ○→SB○→足替え→SF○→CE◎
CCoSp SB→CU○の難しい姿勢変更◎→足替え→US○→難しい出◎
FCCoSp バタフライ◎→CF○→足替えで左→SS○→NBP○→足替えで右→アップライト基本姿勢
でした。
今回は
FCCoSp バタフライ◎左足着氷→CF○→ジャンプによる足替え〇で右→SS○→アップライト基本姿勢
CSSp 右足SF○→CE◎→足替えで左→シット基本姿勢→スピン中のジャンプ○→SB○
CCoSp 左足→CS〇→US○→足替えで右→シット基本姿勢→NBP〇→難しい出◎
と構成を大きく変更しました。昨季と同じく、CSSpとCCpoSpのレベルの取り方がSPとFSで異なるのが特徴です。CCpoSpのSB→CUの難しい姿勢変更◎を取りやめました。更に、USの難しい姿勢、トンプソンを足替え前に実施する所に驚きました。このトンプソンでスピンを、更にプログラムの最後を締めるという印象が強かったからです。

プログラムの見所をさらっていきましょう!
冒頭の独特なマイムで惹きつけ、出陣する前の状況を表している曲調、更に基礎点が9点前後の大技が3つ続くこともあり、緊張感が漂う中のスタートとなります。大きな幅を感じる3連続の頃に中国琵琶が鳴り響き、着氷後すぐにFCCoSpへ、『カラン~♪』と鳴ってスピンを止めさせて次のジャンプへ向かう合図を送り、繋ぎに振りを入れていきます!このタイミングで中華系のエキゾチックさを多くの人が感じることでしょう。3Lzからのコンビネーションジャンプを降りたあとに、しっとりとしたメロディーに変わり、応じてしなやかに舞っていきます!CSSpの出が個人的にお洒落だと感じました!そして、銅鑼の音に合わせ、スリーターンからの3Fを飛んですぐさまChSqに突入します。細かな技の連続で、曲調を表していきます!実はこれが、これまでの長谷川選手のChSqでありそうでなかったものなのです。シニアに入ってからのプログラムで、ChSqと言えば『ロングアウトサイドイーグル+1つ大きな技』を中心に組み立てていたのですが、今回は最後にロングアウトサイドイーグルをするところ以外は、細かな動きの連続です!きちんと曲調を捉えたものになっていて、十面埋伏のクライマックスを表現しているのです。2023年東日本での鈴木潤氏の解説で『コレオステップもオリジナリティ溢れるいいコレオステップだった』と評したほどです!最後に時計回り方向に進む、ロングアウトサイドイーグルから3Lzを降りるのに驚きました!イーグルからジャンプを飛ぶとなると、長谷川選手の場合はアクセル、ループでの実施例がありますが、ルッツは初めて、というか、世界を見渡しても実施例がほとんど無い、オリジナリティ溢れる入り方です!イーグルが得意だからこそなせる技であります。
『ドン~♪』という音に合わせて着氷してから、曲が切り替わり、アラビアン風なメロディーが流れていきます。その中で、前半とは違う独特な動きを見せ、ChSqからの流れをそのまま活かして踊っていくのがポイントです!『3SまでがChSqだよ!』と言いたくなるほどの踊りっぷり、たまにパラパラと手拍子が沸きつつ、ジャンプ前にはぴたりとやめさせる曲のもって生き方です。
StSqを最後から2番目に配置したのも初めてでした!シニア尺では、よく中盤にStSq、最後の方にChSqを配置することが多かったのです。2015-2017シーズンFS映画『海の上のピアニスト』では、最後から3番目にStSqを配置した例がありますが、その時はスローテンポでかつ、エモーショナルに滑ることが求められる曲調でした。今回は全てのジャンプを降りた後、体力的に厳しい中で、急にテンポが上がり、キレ良く、上下運動の激しい動きを要求されるStSqとなっているのです。声で打楽器を表現していくところから、尚更激しさが増していく印象を感じます。そのような状況下で、手拍子が沸き、次々とターンを踏んでクラスター実施、前後開脚のバレエジャンプを降りた直後にランジが大きな見所で、盛り上げていきます!FSで踊り倒すことで盛り上げる狙いがあるStSqは初めてです。StSq1つ取っても、初めてだらけでありますが、全体としても初めてのポイントが多いのですよ!!
そう感じていたらあっという間!最後は今までとはレベルの取り方を大きく変えたCCoSp、バタフライ出を実施して、『ドン~♪』でフィニッシュ!

鈴木潤氏が東日本の解説で、『プログラムの繋ぎだったりとかの運動量が他の選手よりも多いなという印象』と言及した通り、エレメンツの繋ぎでの動きが多いプログラムです!それによって、ジャンプの直前までしっかり踊り、曲の変化についていき、壮大で見応えのある演技に仕上げていきました!

曲調、作品背景、エレメンツ配置、動き、何もかもが挑戦的であり、それらを全てこなしていく多彩さが強く印象に残った、そんなプログラムでした!

1つのプログラムを語るだけで、これほどの量になるとは思いませんでした!!しかし、1つだけ解決しきれなかったことがあります。それはヴォ―カッションがどこの音楽を用いているかです。これは課題残しにしておきましょう。

はい、あともう少しだけお付き合いください!次のページでは競技引退前最後の演技についてに講義し、出典元、公式映像も載せます!

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